■勝者はオフライン・履歴書・SNS組み合わせる企業
先週紹介した米アイデンティファイドは、ソー シャルネットワークからデータを取得し、情報を掘り起し、優れた人材の補充が難しい職種の候補者を探すオンライン人材発掘サービスだった。今週も引き続 き、人材採用の業界で興味深いビジネスを生み出す有望なスタートアップを紹介したい。
◆技術系採用に主軸
人材採用の場面 でソーシャルネットワークを基盤にしたサービスの比重が高まっているのは事実だ。これには2つの理由が考えられる。まず、候補者を特定するために必要な データをソーシャルネットワークが豊富に提供していること。とはいっても、ソーシャルネットワーク上で本当の候補者と偽プロフィルを見分け、優良な候補者 を正確に割り出す技術はいまだ完全ではなく、かなり高度なエンジニアリングが必要といえる。まだまだ走り出したばかりの業界をいずれかのサービスまたは企 業が征するにはあと数年はかかるのではないだろうか。
第2に、ソーシャル採用を使えば、積極的に求職していない人材にも対象を広げられる ことが挙げられる。企業が探している経験や技術を持った人物像とユーザのプロフィルを照合し、マッチする候補者に対してフェイスブック広告で直接訴えかけ れば、何十人、何百人という候補者にリーチできる。採用担当者の仕事は格段に楽になる。
合計320万ドル(約3億1700万円)の資金調 達を成功させたTalentBin(タレント・ビン)は、テクノロジー関連の採用に主軸を置く。エンジニアなどの技術者の採用が難しいのは、優秀な人材の 多くがリンクトインなどの採用に結びつくビジネスプロフィルをアクティブに利用しないからだ。これは世界中で見られる現象だが、一度就職するとめったに職 場を変えない人の多い日本ではその難しさがより際立つ。
タレント・ビンは、フェイスブックの他にもクオラ、ギットハブ(開発者がコードを共有するのに利用するネットワー ク)、ミートアップ(関心事の似た人たちが出会い、集うためのプラットホーム)など少なくとも8つのソーシャルネットワークから情報を集め、有力な候補者 を割り出すと共に、彼らの興味を持っている事柄を調べる。
さらに、特許登録の記録やメーリングリストも情報源として活用し、従来採用のために利用されてきた情報源から一歩踏み込んだ。最適な人材の割り出しと候補者の特定をあらゆる業種・業界へ拡大展開するための鍵となる重要な技術がここにある。
◆トライアウト設定
同じようにテクノロジー業界での人材採用に注力するサービスに、GroupTalent(グループタレント)がある。100万ドルをわずかに超える程度の額を集めたスタートアップだが、他業種にもすぐに生かせるモデルだと思うので紹介したい。
このサービスは、技術的な才能を求める企業と、正社員としての仕事を探しているプログラマーを引き合わせる。特徴的なのは、採用者が候補者を数日から数週 間、フリーランスの契約社員として雇って協働する「トライアウト」の期間を設けていること。プログラマーは週に1000~3000ドルの報酬を受け取って 実際に仕事をし、その企業にとって有益なものをすぐに作る力があるかどうか判断される。腕が認められれば、長期雇用契約が結ばれる。グループタレントを利 用する企業はいずれも、継続的に働ける人を求めているという点で、外部委託のプラットホームとは異なる。
プログラマーの雇用のために始 まったサービスだが、この手法はその他のニッチな市場にも有効だろう。例えば、弁護士と顧問契約を結びたい企業は、弁護士の能力や相性を確認するために契 約書数本のチェックを試し利用できる。内容に満足したときのみ、月額顧問料を払って継続的な関係を築けばよい。同じモデルは、会計士や人材採用コンサルタ ントとの契約などにも応用できる。
◆伝統的アプローチ
もっと伝統的なアプローチを採るサービスもある。先日、1400万ドルを調達した Bright(ブライト)だ。不特定の人にこちらから近づいていって情報を探り出すのではなく、候補者から履歴書を受け付け、その候補者プロフィルを分 析、点数化して、その役職に候補者がどれくらい適格か決定する。
従来、求職者が採用情報をオンラインで確認し、そこで「応募する」ボタン をクリックすると、採用担当者に直ちにその応募者の履歴書が送信される形がとられている。しかし、このやり方では結局山のような応募者が集まり、担当者の ゴミ箱に不適格者の履歴書が大量に廃棄される可能性も高い。
ブライトを使えば、応募者の履歴書がランク付けされて並べられるようになる。 候補者と採用担当者をマッチさせるという点で、まるで、出会い系サイトのようだ。人事部の担当者だけでなく、応募する本人も自分の登録した履歴書が何点と 評価されているか見られるため、自分がそのポストに応募するのに適格かどうか、実際に応募するボタンを押す前に確認できる。
ブライトはま た、履歴書解析において、履歴書に直接書かれていないスキルや能力を推定する機能を備えている。例えば、履歴書に広報の経験を加えると、候補者がスピーチ ライターやパブリックスピーカーとしてのスキルを持っていると推定する。ブライトは、アメリカで人材採用サイトとして訪問者数で5本の指に入る人気ぶり だ。
この業界を征する者がいるとすれば、それは誰になるのだろう。ソーシャルネットワークを基盤にしたサービスにはエキサイティングな響きがあるが、私は従来 型の履歴書をベースにした採用手法を最適化すればチャンスは大きいと思う。勝者は、オフライン、履歴書、そしてソーシャルを組み合わせて提供できる企業で はないか。もしかしたら、リクルートのような企業がこういったサービスを買収して現在のセールスチャネルに追加パッケージとして提供することになるのかも しれない。そうでなければ、企業の人事部長が求めるパッケージを完成させようとするなら、3つのいずれかを提供するスタートアップは急速な成長と数々の買 収を繰り返すほかない。